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タイトル :追憶の釣り
配信日時 :2022/12/31(土) 23:00

本文:


「追憶の釣り」


Billie Eilish i love you

https://youtu.be/mhmGwTDpPf0



あの頃、

俺たちはまだ同じスタートラインにいた。



明日に怯えながら、

それに勝る得体の知れないエネルギーが、

街に複雑に、そしてうねるように交差していた。



俺たちは、いつしか・・・

いつしかいったいどうしてしまったんだろう。



友人の一人は時代を駆け抜け、

友人の一人は自ら栄光を降り、

奴らはひねくれた奴隷と化し、

俺たちの寄生虫になった。




おまえは、

小さなアパートで膝を抱えていた。



暗い部屋の片隅で、

いつまでも鳴らない電話。



ジェルソミーナ。



いつも笑っていたけど、

瞳は泣いていた。



俺たちはいったいどうしたのだろう。



あの頃、

慈光通りを車てぶっ飛ばし、

朝までただ風に吹かれいた。


愛おしい残酷さに、いつも支配されていた。



同じ匂いを嗅いだ。

薔薇と血の匂い。



あの時、俺たちは透明だった。

嘘だらけの大人たちに、真っ向から立ち向かった。



だが、

気付けば誰もいなくなった。


音さえない荒野にたった一人。



受けた傷は思いのほか深かったと、

随分後になって気付いた。



仲間の裏切りはただただ胸をえぐった。


弱者の逆恨みはドロドロとした塊になり、

俺たちを塞いだ。




十字架が胸を突き刺し、

俺はピエロになった。



いったいどうしたんだ、

俺たちは。




釣りにいく理由。



あの頃、

灰色の原野。

乾いた笑い声。

鮮やかでおぼろげな街並み。




宝物のような日々。

2度と戻れない。




釣りをする意味があるのなら、

あの頃に触れていたい。


釣りをする必要がなかったあの頃に。





「喜びの歌」はいつしか大合唱になり、

メインストリートは鮮やかに立ち現われどこまでも続いた。



だが、

俺には始まりのワンピースがなかった。

始まりのひとかけらだけが。




メインストリートの終わりで、

ただ立ち尽くすしかなかった。


全てが終わったようだった。




ジェルソミーナ。

いつも笑っていた。



何の言葉も発せず、

どんな言葉より重く。




ただ、

ただ、

俺を待つしかなかったのだろう。


小さなアパートで。



たった一人で。

震えながら。



たった一人で。

震えながら。




おまえは、バラバラになり還った。



俺は、その破片を今も掻き集めている。





俺には、おまえが全てだった。








「La strada 道」ジェルソミーナ

directer フェデリコ・フェリーニ

music ニーノ・ロータ

https://youtube.com/watch?v=9wGqevjzxMQ&si=EnSIkaIECMiOmarE















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