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タイトル :香港で出会った釣り episode 3
配信日時 :2020/08/12(水) 22:00

本文:

『価値あるものと見なされるこの世の全ての楽しみと比べてみても魚とり
これに勝るものはなし』

『説教する人、物書く人、専制する人、戦う人。利益の為か、娯楽の為か、
いずれにしても最後の勝利者これ魚とり』
By トーマス・ダーフィー 「釣り人の歌」
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第3回「香港で出会った釣り episode 3」


第2回はこちら
「香港で出会った釣り episode 2 」
https://ameblo.jp/flyfishing-japan/entry-12616277388.html


私は、反金縛り状態になった。
動けない。

(金縛りに合うのはこれで2度目だ。さすが香港だな・・)

恰幅のいい老紳士とその両脇に立つ男たち。
欧米人である。

「このまま手ぶらで帰るという選択肢はもはやない」
「俺の顔に泥を塗るわけにはいかないだろう」

非言語のメッセージがストレートに俺に届く。
遠い昔から俺たちはお前たちを支配し、しかし、世界を前進させてきた。

非言語の行間をかなり大げさに読み込めば、
そんな意思と余裕が老紳士にはあった。
キンキンに冷えた部屋に、無言の駆け引きが瞬発する。

私は、インド人青年にまっすぐに強い視線を送った。

「この数日の間に、俺たちには小さな友情が芽生えたはずだ」
「それは、この為の偽りか?」

昨日の昼。

「香港はいい街かい?」
「ああ、まあね。だけどもうインドに帰りたいんだ」
「そうか・・。お互い頑張ろうぜ」

そんな会話をしたばかりだ。

インド人青年は私と目が合った瞬間、ほんの一瞬、
狼狽した表情を見せた。

私は、その表情を見逃さなかった。
同時に、微動だにしなかった老紳士がほんのわずかに動いた。

部屋の空気が変わった。

私は2、3歩後ずさり、
誰も動かないのを確認して、思い切って踵を返し、
重厚なドアのノブを回した。

開いた。

外へ出ると、人々が忙しそうに通りを行き交う。
ムッとした熱気が立ち上っている。

私は、ネンザンロードを歩きながら頭を整理した。

時間にして一分もいなかっただろう。
男たちは、ただあの部屋で男たちなりのやり方で、
商売をしていただけなのかもしれない。

まっとうな物を売っているだけなのかも知れない。
それは確かめようがないが、それにしても、
私にはあのような部屋が香港には多く存在する気がしてならなかった。

翌日、通りにはいつものようにインド人青年が立っていたが、
私とは目も合わさずに、二人連れの若い女性を相手に何かを力説していた。
茹だるような陽炎がアスファルトから立ち昇っていた。

香港で買った土産物は、
女子十二楽坊のDVDと、パチもんのヴィトンのカード入れ。
このカード入れが頑丈にできていて今だ現役である。

廟街のナイトマーケットで、親父さんに値段を聞くと、
70香港ドル、日本円で1,000円ぐらいだと言う。

そんなルイヴィトンがある訳がないが、
親父さんは、ヴィトン、ヴィトン!本物!
いいルートから仕入れたんだ、だからこの値段でOKだ!

と、全く悪びれた様子はない。自信満々である。
その根拠なき自信に、敬意を表したくなり思わず買ってしまったのである。

香港のように地鳴りする街があってもいいと思う。

何かが起こりそうな予感に溢れたストリート。
毎夜繰り広げられる何千という屋台と人の波のうねりが作り出す物語り。
無許可営業の屋台と警察の攻防。コントを見ているようだった。
物乞いと胡弓のコントラストは、間違いなく主役の一つであった。
出稼ぎの女たちは、海風を受けながら対岸の夜景を静かに見つめる。
アバディーンでは、子供達が船の上から飛び込みを繰り返し遊ぶ。

街全体がアートのように存在する。
様々な原色をドバッとぶちまけて、そこに乱暴に絵を描いたような街である。
そこは、世界と繋がる。

今、香港はどうなのだろう。
全ては移ろいゆく。
あの時のあの熱気は、もう幻なのか。

遠い日本にいながら、
寂しさと切なさを感じずにはいられない。

また、廟街を訪れることがあったなら、
あの時のままであって欲しい。

少なくとも、私はそこで自由を感じた。
初めて訪れた街なのに、あの懐かしさは何なのだろう。
ずっと昔から、この光景の中で生きてきたような感覚。

隠しきれないエネルギーが街中にむき出しにされる。
そこには、当たり前の原初的信頼が芽生える。
隠される街には、疑心暗鬼が生まれるだけだ。





日本が閑散とした通りで溢れたように、
香港の廟街にすきま風が吹くとき、
世界は、今までにない変化を迎えているという事なのだろう。

それは必然なのか、それとも・・。





香港は、深夜特急の中で描かれていたものと同じだった。
それを、確かめられたことが嬉しかった。

さて、
次号で、私のもう一つの目的であったEnter the Dragonについて、
暑すぎるぐらい熱く語りたいと思う。
私の釣りにも大きな影響を残している。



つづく。








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