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タイトル :ルアーVSフライ仁義なき戦い
配信日時 :2020/01/23(木) 06:30

本文:

『価値あるものと見なされるこの世の全ての楽しみと比べてみても魚とり
これに勝るものはなし』

『説教する人、物書く人、宣誓する人、戦う人。利益の為か、娯楽の為か、
いずれにしても最後の勝利者これ魚とり』
By トーマス・ダーフィー 「釣り人の歌」
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【ルアーVSフライ仁義なき戦い】



管理人の男は、悲痛な表情さえ漂わせながら言った。

「フライの人は針を飲み込まれるし、リリースの仕方も雑で魚が大量に死んでしまうんです」

「だからつい最近、ルアー専用にしたんですよ」

「・・・・」


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先日、あるポンド型の管理釣り場に出向いた。
サイトイマージングという釣り方のフィールドテストをする為に。

ナビにも登録がないので、
近くの温泉を目的地にして。

看板もなく車一台がやっと通れるデコボコの山道を行くと、
小さなポンドの釣り場に出た。

車を降り、とりあえず池の様子を見ようと
斜面を登っていくと、

「釣りですか?ルアーですか?」

長髪の男が話しかけてきた。

「いえ、フライです」

「あ、フライは禁止にしたんですよ」

「え?そんなことHPには書いていなかったよ」

「告知が遅れてしまったんですが、そうしたんです」

「それなら、HPにそう書いてくれないと」

「すみません、そうしないとは思っていたんですが、台風の被害やなんやらで・・」

「なんで、フライがダメになったの?」

そして、冒頭の言葉が出てきたのです。

「フライの人が何人も来て、何百匹と魚が死んだんです」

と。

おそらく、初心者がマーカーを浮かべ浮き釣りの要領でやっていたんだと想像できる。
飲み込まれるというのは、大半がそういうことだ。
合わせが遅いのである。

それにしても、フライが禁止というのは意外だった。

フライの人たちに、少なからず敵愾心があるのはすぐにに分かった。

「あなたはルアーだけ?」

「フライもやります」


目線を水面に向けると、ポワ〜ンと小さなライズリングが広がっている。


「そうなんだ、ああいうライズを釣るのはフライならではで、面白いんだけどね」

「わかります、でも釣れないんですよね」

「俺なら釣れるよ、あのライズ」


時間を掛けて来たはいいが、釣りができないとなれば、
ちょっと挑発もしてみたくなるのが人情である。


「ああいうライズはルアーの人はもちろんフライでもなかなか釣れないでしょ?
でも、俺なら釣れるよ」
(まあ・・釣れないこともあるけどね・・)

ミッジのライズを仕留めることはフライフィッシングの独壇場で正直、快感なわけである。


「でも、なんでそんなに多くの魚が死んじゃったんだろうね?
ルアーだって、シングルフックでもかなり大きな針だし、
フライばかりが責められるもんでもないと思うけど」

「たまたま、そのとき来た釣り人が下手だったんじゃない?」

「そうかもしれないですけど・・」

「魚を大事に扱ってくれないんです」


考えられるのはやはり初心者で、
リリースの経験が浅い釣り人ということが、一番可能性は高い。
ガツガツと針外しをしてしまうのである。

でも、フライを禁止にしたのはそれだけだろうか?
心の中では、瞬速の分析が始まる。

そうか、分かった。
一つの推測がすぐに浮かんだ。

なんだかんだで、フライの方が釣れてしまうことが多い。
マーカーでも引っ張りでも。
横で釣っているルアーマンは釣れない。
よって面白くない。

フライマンはリリースするが、飲み込まれたりダメージが大きく死んでしまうこともある。
確かに飲み込まれるのは、単純にフックの大きさから言えばフライの方が多いだろう。

管理人は、「やはりルアーだけにした方が得策かもしれない」
と考えたのだろう。


おそらく、ルアーマンからも提言があったかも知れない。
フライが釣れる状況だと、ルアーは分が悪い。
私の経験からもそう言える。

特に、ユスリカのライズが盛んな時など、ルアーマンはお手上げの時も多い。

魚はあの小さな虫に興味が行っているのだから、
スプーンやミノーではそりゃ難しい。

文字通り、あんなスプーンのような物体でリアクションさせて釣るということも、
その面白さは分かる。

でも、要するにくるくるとリールを巻き上げるだけの単純な動作の継続に、
飽きはこないのだろうか?
今でもそれが不思議である。私としては。

もちろん、その中にも様々な戦術があり考えることもあるだろう。
すべてとは言わない。


一方、
思考し分析することにおいては、
やはりフライフィッシングに敵う釣りは他にないと思う。

しかしながら、
フライフィッシングも、何も考えずに釣ろうと思えばそうできてしまう。
前へ浮きを投げてただ流れに任せて釣る、というやり方だ。

これなら、難しいことを考えなくても
ウキの動きを追うだけで成立してしまう。
思考するポイントがないとは言わないが、考えなくてもできてしまう釣りである。

要するに何が言いたいのかというと、

「簡単にできてしまう、すぐに誰にでもわかりやすく」

という行為に私は興味がわかないのである。
興味がわかないどころが、危機感さえ覚える。

簡単に出来てしまうことは、考えなくて良い。
考えないから、ふやけた顔つきになる。ボーとしていればいいから。
シャープさはなくなる、何をするにも。

よって、与えられたものだけを消化するだけの慢性的日々が続く。
自分で考えたくないから、指示を待つだけの人間になる。

結果、都合よく踊らされる側で生きるしか術が無くなる。
頭のいい分裂的な人種のカモになる。


簡単さ、分かりやすさには、必ず罠がある。


ルアーとフライを比べて、
もちろん、一概にこういうことだとは言えない。
当然、個人差はあり、高いレベルではその状況が逆転する場面もあるだろう。


しかし、一方で、
釣りをしていてフライフィッシングに興味がわかない人が私は不思議でしょうがない。

「簡単、誰でも、分かりやすく、インスタントに、お気楽に、練習なしで、その日から」

こういう理由でルアーを選んだのなら、それはあまりにもお気楽過ぎないか。

私には、なんとも味気なさが残るだけである。
退屈すぎて、すぐに飽きることは目に見えている。

しかし、人間はこのように進化してきたし、このように求めてきたのである。

楽に。楽に。もっとらくに。



ところで昨今の教育でも、

暗記から、「自分で考える」ことの大切さが以前よりは言われるようになった。

このことは当たり前の話だと思うが、その実、
子供以前に、多くの大人が考えることができていないことも事実である。

考えているようで、いつも、誰かの意見に合わせるだけ。
楽だから。

インチキ教祖に自ら洗脳されに行って、やれている気になっている人間もその実多い。
要するに、自ら考えないということは「依存」を生む。


「簡単さVS難しさ」

「分かりやすさVS分かりにくさ」

「マジョリティーVSマイノリティー」


これからも、この構図のせめぎ合いは続いていくのであろう。



精神が弱くなる原因の一つは、忍耐ができないことだ。
このことに異論がある人は少ないだろう。

耐える釣りとは、難しい釣りのことでもある。
難しいからいいのである。
面倒臭いからいいのである。

忍耐強く耐えて、気持ちを切らすことなく耐えて、冷たい水の中で耐えて、
そうすれば、いつか、いずれ地味な努力が報われる日が来るだろう。
地道に耐え抜くしかない。

逆であれば、残念ながら「その精神」は貧弱なものにならざる負えないだろう。

簡単に飛ばないフライキャスティングだからこそ、良いのだ。

それが、面白いんですよね。






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