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タイトル :釣り人に共通する意思
配信日時 :2020/02/15(土) 06:30

本文:

『価値あるものと見なされるこの世の全ての楽しみと比べてみても魚とり
これに勝るものはなし』

『説教する人、物書く人、宣誓する人、戦う人。利益の為か、娯楽の為か、
いずれにしても最後の勝利者これ魚とり』
By トーマス・ダーフィー 「釣り人の歌」
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大井しょうぶです。

前回の「川からの手紙 静寂のレクイエム」
に、ニンフィングメンバーのTさんが、
また素晴らしい感想をくれましたのでシェアーします。



大井さん

またまた、心に刺さるメールありがとうございます。

僕は田渕さんの、フライフィッシング教書がバイブルでした。
そこにあった、モノクロ写真。
それが北海道の道南の川で彼の友人が釣り上げた50オーバーの虹鱒でした。
両手で抱えた黒い斑点のあるワイルドレインボー。

僕が、北海道に何度も訪れるのはそこに原点があります。
当時、僕の中では強烈なインパクトでした。
今までも、その写真を見ると同じ気持ちになります。

更に、フライフィッシング教書は、技術だけではなく、
フライフィッシングを生活の原点にするような教書でした。

ソーローの森の生活や、ウォルトンの釣魚大全や、
色んな本に感化された時代でした。

だから、フライフィッシングの思い出は、単なる釣りではなく、
いつも何かしらのその頃の自分の気持ちと一緒に思い出します。

夜中走った車の中でずっと聞いていた音楽もそうです。

今もフライフィッシングが自分の中で特別なのは、
そういったSOULフルなものだからだと思います。

みんなでワイワイやるフライフィッシングも楽しかったですが、
独りでやるフライフィッシングこそが、僕の中では大切な時間でした。
ネクラだったんですかね

それから、大井さんや、
北海道のガイドさんのような達人たちと出逢いが出来たのは、
本当に幸せだと思います。

川と森と魚達と、そして素晴らしい人達と、
一生付き合って行けたらと思います!




・私の返信

Tさん、
いつもありがとうございます。

田渕さんから影響を受けたフライマンは、実はかなり多いと思っています。
孤高な感じがかっこいいですよね、群れていないというか。
テクニックだけに走っていないところも、私は好きです。

今、なかなかいそうでいないタイプの釣り人だと思います。
色んな人が釣りの本は出していますが、
田渕さんは、独特の深さがあると思います、思考の深さが。

私は、「川からの手紙」を読んだからこそ、
音楽は諦め、こっちの世界を探求しようと決断できたんだと思っています。

なんと言いますか、押し付けがましさがないんですよね、文章に。
だから、非常に楽に読めるんだと思います。心が楽になれます。
私は、押し付けてばかりですが・・。(汗)
スコッと抜けている世界観を感じます。

今回、田渕さんの訃報を知り、
改めて私は田渕さんの影響をかなり受けていたんだなと、再確認した次第です。




・Tさん返信

大井さん、音楽やってたんですね。
またその話しは、いつか聞かせて下さいね。
フライフィッシング上手い人はたくさんいますが、
大井さんみたいな人はなかなかいません!!



----ここまで-----


ただの変わり者にならないよう、気を付けます(笑)


ソローやウォルトン、そして田渕さんに共通するもの。
何だとあなたは思いますか。

・・・。

私は、単独者というイメージがすごくありますね。

孤独というのとはちょっと違って、
単独者という世界観です。


ロンリネスではなく、
何と言いますか、かっこよく言わせて貰えば、

「意思を持ったソリティアとして荒野に立つ」

という絵が浮かんできます。
3人とも。


で、ですね、
本当は、誰でもそうなりたい憧れはあるんですよ。

私もそうです。
でも、言うは易し行うは難し。
その覚悟を持つことは並大抵ではないです。

ロンリネスではなくソリティア。
この違いを自分の中で明確にできれば、
いらぬ不安に苛まれることもないのではないかと。

群れの中の孤独ではなく、
意思を持って群れから外れ、単独者として生き抜く。
その意思。

もちろん、
繋がりは大事だと思います。

しかし、
ロンリネスを恐れるあまり、
おざなりな関係の中で身動きが取れなくなってしまう。
群衆の中で笑い、裏腹に孤独を感じてしまう。
俺はここにいないと。

そこは、自己疎外の空間。

おそらく、
釣り人は、心の奥底でソローや田渕さんと同じ意思を持っている。
みんな、うまく言葉にできないけれどそうであると私は思います。

ロンリネスではなくソリティア。
孤独ではなく単独者。
その繋がり。

自分の人生を本当に愛そうとしたら、
多かれ少なかれ、こうなっていくんじゃないでしょうか。


ソリティアとしての生き方
「大人のフライフィッシング授業 ユーロニンフィング編」
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3月から再開します。楽しいですよ。





【前回メール】


FF大全 Midnight Express


「川からの手紙」静寂のレクイエム


当時、
私はスピードを押えることでいっぱいだった。

音楽の持つ強大なエネルギーと
自分の鬱屈したエネルギーの狭間で
身体がひきちぎられる思いだった。

内から止めどもなく溢れ出す情動は、
きっかけさえあれば、天国にも地獄にもどちらにも行けた。
人とは違う何かがいつも俺を有頂天にさせ、そして絶望させた。

歯を磨くとか、ご飯を食べるとか、
そういううすのろな生活は、静かなる狂気をいつもはらんでいた。

ある夜、
近くのコンビニでパッと視界に飛び込んできた言葉は、
瞬時に体内を駆け巡り浸透さえした。

「川からの手紙」田渕義雄著

表紙の釣り姿を見て、衝動的に手に取った。
内容などは確認しない。

この手紙を読みなさい。
私の後ろで誰かがそう言っている気がした。

それは今思えば、
私にとっては奇跡的な出会いであった。

とにかく、スピードを落とさなければいけない。
普通に笑えるように。

静寂を取り戻さなければいけない。

毎夜、毎夜、読んだ。
苛立った神経をなだめるのに、
アルコールを無理にでも身体に流し込み麻痺させなければ、
あっちへ持っていかれそうな夜。

うまく寝れない日々が長らく続いていたが、
不思議と、この本を読むといつの間にか眠れるようになった。

科学的には説明できないであろう安堵がそこに少しずつ充満した。
セロトニンだとか、ドーパミンだとか、そういう物質的な説明はいらない。
趣がない。

私は、毎夜、この本からセラピーを受けていたようなものだった。

標高1400m、川上村での釣りの日常。
静かで穏やかな釣りの日々。
愛犬との釣り。

ゲーリーラフォンティーンから教わった、
イマージェントスパークルピューパ。

名前で、圧倒された。
その後の私の釣りにも、大きな影響を残した。

静寂であり、熱狂であり、
垢抜けていてカッコよかった。

自分で巻いた、蛾のようなエルクヘアーカディスと、
ロイヤルコーチマンを持ち、金峰山川へ向かった。

釣れなかった。
キャストしても、水着と同時に強い流れにあっという間に引っ張られる。
ラインを跳ねあげようとしても、ベタッと貼りついたまま。
上手くできたと思ったら、毛鉤は明後日の方向へ飛んでいく。

本に書いてあることと違うじゃん。

そう、本当に思った。
いいことばかり書いていて騙された気にもなった。

夜、川のほとりで車中泊をした。
星が綺麗だった。届きそうで、今にも降ってきそうだった。

こんなに星ってあるんだ。
知らなかった。

朝、川の水を飲み、
下流から釣りあがった。
電気柵に引っかかりしびれた。
何か、悪いことでもしているような後ろめたい気分のまま、
釣りあがった。

やはり、釣れない。

深緑のプールが目の前に広がり、
いかにも岩魚が潜んでいそうだった。
濃度の高い空気が充満していた。

ロイヤルコーチマンを、大きな沈み岩の脇に投げた。
横に倒れた毛鉤がツツ~と流れに乗った時、
下から、グォ~ンと何かが浮上してきた。

「うぉ・・」

私には、潜水艦にさえ思えるほどだった。
そいつはバコッと毛鉤をくわえた。

「き、きた!」

心臓はバクバク音を立て、慌ててロッドを立てラインを引いた。
水没しそうになりながら、どうにか取り込んだ。

「やった、釣れた・・」

田渕さん、
あなたの言っていることは当たっていた。

声に出したかった。
周りに誰か人はいないか。
釣れたことを、誰かに言いたかった。

誰もいないその渓で、
一人、興奮はいつまでも冷めやらなかった。

きれいな岩魚だった。
なんでこんな模様をしているんだろう。
不思議だった。

ニジマスやヤマメと違い、体がぬめっとしていた。
それが、何ともよかった。嬉しかった。
野生に出会えた気がした。

水が冷たかった。

私の渓流デビューは、こんな感じで終わった。


救われるとはどういうことか。
正直、本当のところはまだよく分かっていない。

だが、
「川からの手紙」
を、夜な夜な読むことで、私は再生していった。

都市の電気音な生活。
感電しっぱなしの都会人。

足りていなかった何かが、
本当に少しずつ、私の体の中を長く雨を降らすように循環し続けた。

川上村のあの流れを思い出すたび、小さな希望が芽生える。
誰かから与えられたものではない自灯明が小さくともる。
また、元気になれる。

レタス畑。
トラクターの音。
朝もやの水面。
魚の小さなもじり。

田渕さんとは面識もなかったし、今はもう会いたくても会えないが、
でも、いつでもこの本を通して会話はできると思う。


「川からの手紙」

この本の最後に、確かこう書いてある。

「シンプルに。それが、岩魚の教えだ」


川からの手紙
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Ps、
今この本は2冊ある。
一冊は表紙が破れ手垢で黒ずみ、ボロボロになった。
もう一冊、古本屋で見つけ手に入れたのだ。

私がこうしてメルマガなんてものをやっているのも、
田渕さんの影響も少なからずあるんじゃないかと。




Ps
最近、田渕さんが北海道で釣りをしている動画をどこかで見たんです。
ニンフを持っていて、ビーズヘッドの後ろに赤がチラッと見えて、
「あ、ホットスポットだ」なんて思って。
ユーロニンフやったんだなと。勝手にそう思っています、勝手に。(笑)

「大人のフライフィッシング授業 ユーロニンフィング編」
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